Mass-ive-Hero-ES

Curated by NULL

『これはただの夏』Recs/書評

Amazon.co.jp: これはただの夏 (新潮文庫 も 45-4) : 燃え殻: 本
Amazon.co.jp: これはただの夏 (新潮文庫 も 45-4) : 燃え殻: 本

Recommend/書評 〈Write by Mob-p D〉

『これはただの夏』

作品概要

『これはただの夏』は、テレビ制作会社に勤める「ボク」と、彼の周囲の人々が過ごした、とある夏の数日間を描いた物語です。

ボク: テレビ制作会社で働く主人公。生きづらさを抱えながら、終わりのないような日々を送っている。

明菜: 「ボク」が住むマンションの住人である小学生。純粋で、どこか大人びた視点を持つ彼女との交流が、ボクの日常に小さな波紋を広げる。

大関: テレビ局の先輩ディレクター。彼との関係性や、ふとした瞬間に訪れる「終わり」の気配が、物語に深い影と余韻をもたらす。

本作は、デビュー作『ボクたちはみんな大人になれなかった』で多くの読者の心を掴んだ燃え殻さんが、再び「日常の中の痛み」を鋭く切り取った一冊です。前作と同様に、完璧ではない自分と向き合いながら葛藤する現代人の姿を、リアルに、しかしやさしく描いています。

読みどころ

燃え殻さんの文章は非常に独特で、Twitter投稿のリズムをそのまま残しつつ、平易な言葉で深い感情を伝えます。私自身、読み進めるうちに何度も胸が締め付けられ、数時間で読み終えてしまいました。そのリズム感とリアルな描写の組み合わせは、まるで手元にある日常の断片が画面に映し出されるかのようです。

特に印象的なのは、登場人物の距離感とそれぞれの制限時間。「ボク」たちは完璧ではない日常の中で少しずつ互いに影響を与えながら生きています。その瞬間の切なさや後悔、些細な気づきの積み重ねが、読者に強く共感を呼び起こします。

ボクと明菜のやり取り、あるいは大関という「死」を目前にした人物の存在感は、物語の深みを増しています。誰にでも訪れる「過ぎ去った夏の切なさ」を思い出させ、読者を自分自身の時間の中に引き込む力があります。

制作背景

推薦コメント

燃え殻さんは本作を、2019年にバンド『けもの』の青羊による楽曲『ただの夏』にインスパイアされて執筆しました。さらに、幼少期からの「普通でいなさい」という母親の言葉が「呪い」として心に残っていた経験が、作中の生きづらさや自己葛藤を形作っています。こうした個人的な体験と楽曲からの着想が、本作に独特のリアリティと切なさを与えています。

本作は、マカロニえんぴつのはっとりさんや映画監督の岨手由貴子さんからも推薦されています。また、単行本は2021年7月に刊行、文庫化は2024年8月、さらにAudibleで朗読版も提供されていますので、紙でもデジタルでも楽しめます。

結び

『これはただの夏』は、誰にでも訪れるけれど儚く美しい瞬間を描いた作品です。大きな事件は起きない、しかし日常の中のささやかな出来事が深く心に刺さります。「もう遅いと思うには、きっとまだ早い」というメッセージは、この夏だけでなく、日々の生活においても響く言葉です。

小規模出版社ディレクターとして強くおすすめできる、読後に誰かと語りたくなる一冊です。ぜひこの夏、ご自身のゆっくりと切ない時間と重ね合わせて読んでみてください。

※個人の感想をもとにしたおススメ案内と書評になるため、表記に誤りがある場合があります。誤り等がある場合は、コメントをお願いします。確認して修正します。

『たまたま生まれてフィメール』

作品概要

『たまたま生まれてフィメール』は、性暴力やジェンダーに関する問題を長年取材してきたフリーライター・小川たまか氏による、2023年5月に平凡社より刊行されたエッセイ集です。1980年生まれの著者は、編集プロダクションの共同経営を経てライターとして独立し、Yahoo!ニュース個人「小川たまかのたまたま生きてる」などで、性暴力被害や社会の歪みについて鋭く切り込んできました。

本書は著者の単著として、社会で生きる女性やマイノリティが直面する困難を、徹底して「差別される側の視点」から描いています。重いテーマを扱いながらも、著者の等身大の体験や思考が重なることで、読者が自分事として考えられる一冊となっています。

読みどころ

本書の最大の魅力は、緻密な取材に基づいた「社会構造の解説」と、著者自身の「個人的な日常」が分断されることなく融合している点です。

目次に並ぶ「親ガチャ・DHC問題」や「女性はいくらでもウソをつける」といったセンシティブなトピックも、著者の語り口によって、遠いニュースではなく、私たちの生活の延長線上の出来事として提示されます。高校時代の痴漢被害や、自身の裁判傍聴記録といった生々しい記述がある一方で、夫婦別姓への思いや日常の身体的な悩みなど、ユーモアを交えたエピソードも豊富です。この「シリアスと親しみやすさのバランス」が、読む者に「自分も加害者や被害者になりうる社会」のリアリティを突きつけつつも、決して読者を突き放さない温かさをもたらしています。

推薦コメント

「ニュースを見るたびに何かがおかしいと感じているけれど、どう言語化すればいいのか分からない」という方にこそ、強く推薦したい一冊です。

本書は単なる社会風刺やフェミニズムの教科書ではありません。著者が自身の専門知識と個人的な体験を織り交ぜることで、「私が悪いのでは」と抱え込みがちな個人の苦しみを、「社会全体の構造的な課題」へと優しくスライドさせてくれます。社会問題に対して無力感を感じている読者に対し、知識を得ること、そして語り合うことの重要性を説く、非常に力強い指針となる作品です。

結び

『たまたま生まれてフィメール』は、日々流れてくるニュースの裏側にある「見落とされがちな痛み」を拾い上げるためのレンズのような一冊です。著者の細やかな取材力と、社会に対する柔軟かつ批判的な視点は、現代日本のジェンダー論を理解する上で欠かせません。

性暴力やフェミニズムに関心がある方はもちろん、日々ニュースに触れながらも問題の本質を掴めずにいる方にこそ、ぜひ手に取っていただきたいです。ページを閉じた後、きっとあなたの世界の見え方は、昨日よりも少しだけ鮮やかで、そして確かなものになっているはずです ※個人の感想をもとにしたおススメ案内と書評になるため、表記に誤りがある場合があります。誤り等がある場合は、コメントをお願いします。確認して修正します。